最高裁判所第一小法廷 昭和24年(新つ)20号 決定 1953年8月26日
東京都中野区鷺ノ宮三丁目一〇番地
原田方
抗告人
佐々木正一
右代理人弁護士
梨木作次郎
右抗告人がした被告訴人金子準二、同内村祐之、同林暲の職権濫用致傷罪についての審判請求を棄却した東京地方裁判所の決定に対する抗告事件について、東京高等裁判所が昭和二四年一二月三日した抗告棄却決定に対し、抗告人から更に特別抗告の申立があつたので当裁判所は左のとおり決定する。
主文
本件特別抗告を棄却する。
理由
抗告人の代理人弁護士梨木作次郎の特別抗告申立の理由は末尾添附のとおりである。
抗告人のした前記審判請求事件の記録に徴すれば抗告人が精神病院に入院させられたのは、昭和一六年九月二二日頃であり、その退院したのは昭和一九年一一月であつて、いずれも日本国憲法施行前のことである。従つて当時有効に施行せられていた精神病院法二条一項の解釈如何は本件において新憲法違反の問題を生ずる余地は存しない。そして所論は、原判決が「精神病院法(大正八年法律二五号)二条一項にいわゆる精神病者には精神病質者を含む」と解釈したことを非難し、もし右の解釈が正しいとすれば、精神病院法は、いとも簡単に行政措置で、世上に多数存する精神病質者を入院せしめ、その自由を拘束し得ることとなり、人権を保障した日本国憲法の条規は空文に帰する。故に精神病院法は精神病質者を対象としていないこと明らかであると主張するもので、要するに所論は、違憲を云々するけれども、憲法施行前当時有効に施行せられていた精神病院法二条一項により一切の措置を完結した事案を問題とする本件にあつては、実質上違憲の問題を生ずる余地は存しないのであるから、刑訴四三三条の特別抗告の適法な理由とならない。
よつて、刑訴四三四条、四二六条に従い裁判官全員一致の意見によつて主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 真野毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎)